今年も師走となりました。一年があっという間に過ぎた、としみじみ思う時期です。みなさん、今年はどんな年だったでしょうか。僕の場合、昨年末から、友人や身内の不幸が続いて、寂しい気持ちが募ったり、この春から引き受けた自治会長の仕事ではご近所の方たちからお叱りばかり受けて落ち込んだり、あまりいいことがなかったような、そんな年でした。
そして先日、児童書業界に衝撃が走るニュースが飛び込んできました。名古屋にある児童書専門店メルヘンハウスが来年3月で店を閉めることになったというのです。メルヘンハウスといえば日本初の児童書専門店と言われた店です。後継ぎも決まってうらやましいなと思ってましたが、やはり時代の流れには乗れなかったということでしょうか。中日新聞の取材に社長の三輪さんは、「経営理念と売り上げを何とか両立してきたけれど、100%売上重視のネット通販にはかなわない。これ以上頑張っても厳しいと判断した」とおっしゃっています。
インターネットが普及し始めたころからいつかこんな時代がやって来るのではという予感がありましたが、とうとう現実になってきてしまいました。今から数年前のことになりますが、テレビの取材で、東京の大手書店の店長さんが、「本屋で本が売れなくなった時代が来た」とおっしゃっていたことが耳に残っていますが、本当にそのとおりになってきました。ネットショップは巨大バーチャルデパートで、そこに行けば何でも買うことができる。確かに便利です。服や電化製品を買うのと同じ感覚で本も買う時代になったのです。
おおきな木は開業して24年目になりましたが、「子どもと本の素敵な出会いが生まれる場所にしたい」という思いがありました。そう、本屋というのは出会いの場だと思ってましたからね。僕自身、本屋を始める前からいろんな本との出会いを求めてふらふらと本屋で時間を潰すことをよくやってました。仕事の帰りに我が子に絵本を一冊買って帰るのも楽しみでした。ある本との出会いで目からウロコが落ち、人生の舵取りを大きく変えるきっかけにもなりました。脱サラをし、今の商売を始めたのもその本の影響大です。
こうした出会いはバーチャル書店には全くないとは言いませんが、やはりその場で実物を手にとって、表紙や目次、そして本文をパラパラとめくって飛び込んでくる言葉やイメージ。それに惹かれて購入する。そのワクワク感は、パソコンやスマホの画面にはありません。
また、最近では悔しい思いをすることも多くなりました。絵本ライブや保育士さんなどの研修に講師で出かけていっても、本や自作のCDの販売をさせてもらえないことが時々あるんです。本屋を講師に呼んでおいて本を売るなとはどういうことかと言いたいです。子どもたちが喜んでくれる、親子で幸せになれる、そんな絵本をいっぱい紹介しても、その絵本の注文はネット通販に行ってしまうのかと思うと本当に悔しいです。もちろん、おおきな木まで足を運んでいただける方も少なからずありますから、販売ができなくても出張公演はずっと続けていこうとは思ってますけどね。
本屋に限らず、今やバーチャル店舗はますます増えています。このまま増え続けたら、文化の継承地としての役目を果たしている町が消えていくことになるのかも。寂しいですね。おおきな木もいつまで続けられるか分かりませんが、子どもたちの笑顔が溢れる場として、本を売り続けていきたいと思っています。
おおきな木 杉山三四郎