今年の3月12日の東京都予算特別委員会での話だそうですが、共産党の都議が、「都立高校の校則、なぜツーブロックはダメなのか」という質問をしました。すると、教育長は「外見等が原因で事件や事故に遭うケースなどがございますため、生徒を守る趣旨から定めているものでございます」と答弁。7月に入ってから、都議がこの様子を撮影した動画をツイッターで投稿したところ、なんと230万回も再生されたようです。
「髪型がツーブロックだと事件や事故に巻き込まれる」なんて話はもちろん根拠のないこじつけで、真に受ける人なんて誰もいないでしょう。こうしたブラック校則の話は今に始まったことでもなければ、東京都だけの話でもないのですが、これを機に、校則のあり方、子どもの人権(人間の尊厳)について、そして、学校の存在意義についても考える機会になっています。
20年ほど前の話になりますが、息子が通う高校の担任の先生から、突然電話がかかってきました。「私では指導が通らないので、ご両親からも指導をしてほしい」と言うのです。何の話かと思ったら、どうやら息子は髪を染めていたらしく、それが校則違反だと言うのです。親も気づかないほどの、ごく一般的な髪の色だったのですが、「何で髪を染めたらいけないのか?」と聞いても、「校則で決まっているから」としか答えは返ってきません。それで、「髪を染めることが悪いことだとは思わないので、息子に指導することなんかできません」と突っぱねました。そして、「校長に会わせてほしい」とその翌日、学校まで出かけました。しかし、会ってくれたのは校長ではなく学年主任。答えはいっしょで、「校則だから」「何とかご理解いただきたい」の一点張り。同席していた担任は一切無言でした。こういうモンスターペアレント問題は担任一人には荷が重いので、学年主任が登場なんでしょうね。
こうした校則がなぜあるのかちゃんと納得できるような説明ができる教師はいるんでしょうか。教師をされている知り合いも何人かいますが、ある中学では「下着は白」と決まっているらしく、下着検査までさせられるんだそうな。子どもが可哀想と思いながらも、セクハラまがいのことをやらなくてはいけません。意に沿わないことをやらされる教師の立場も辛いと思います。森友問題で、法に触れるような公文書改ざんを命じられた国家公務員の心境とも重なります。
教育研究家の妹尾昌俊さんの『教師崩壊』(PHP新書)という本によれば、ここ10年、うつ病などの精神疾患によって休職している教員は毎年5000人前後。そのさらに10年前に比べると倍増しているのだそうです。また、日本の教員の労働時間はダントツの世界ワーストで、過労死や過労自殺も増えているとのこと。まさに教師崩壊状態。こんな状態では、学校という場所が子どもたちにとっていい環境であるはずがありません。
そして、日本の教育は「従順な羊を育てているだけ」で、創造力や批判的思考力を育てていないとも言っていますが、僕も同感です。誰がどういう経緯で決めたのかも分からない理不尽な校則を無批判のまま守っているというのは、そういうことなんです。批判したくても、同調圧力の方が強い日本の社会では、教師、そして保護者たちも口を閉ざすしかないのかも知れません。
このコロナ禍の中、子どもたちは大人の都合でいろんなことを我慢させられていますが、もっと子ども本位に考えられる社会になってほしいとつくづく思います。
おおきな木 杉山三四郎