楽しく勉強できる「バーバパパのがっこう」

 『おばけのバーバパパ』(アネット=チゾン/タラス=テイラー作、山下明生訳/偕成社)という絵本はご存知でしょうか。僕がこの絵本に出会ったのは、大学をやめて北信の田舎町で一人暮らしをしていた時でしたが、最近、このシリーズの一冊『バーバパパのがっこう』という絵本をあるきっかけで紐解いてみました。

 先月もこの欄でご紹介しましたが、この春、岐阜市に草潤中学という公立の不登校特例校が開設されました。学校案内の表紙には「ありのままの君を受け入れる新たな形」と書かれています。校則もなければ、校歌も校章もない。決まった制服や体操服もないし、給食もなし。担任は生徒が自分で選ぶとか、通学形態もみなそれぞれでOKという、今までの公教育の常識を破った試みがされています。その草潤中学の開校式で話題になったのが、『バーバパパのがっこう』(講談社)です。来賓として参加された京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之さんが、「理想の学校」としてこの絵本を紹介されて、列席の方々が感銘を受けました。

 バーバパパは何にでも形を変えられるおばけで、これまでもその「特殊能力」を使っていろいろと人助けをしてきました。バーバ一家は全部で9人。バーバママとの間には、7人の個性豊かな子どもたちがいます。

 ある日、バーバパパたちが可愛い友だちを連れて学校に来てみると、生徒たちは教室で大暴れ。学級崩壊状態です。親やおまわりさんたちは、「子どもはびしびし躾けることが肝心だ」と言うのですが、バーバパパはその意見には反対で、「子どもは、楽しみながら勉強させてやらなくっちゃいけません」「音楽が好きな子どももいるし、鳥や動物が好きな子どももいます。そんな自分の大好きなことを勉強するのなら、きっと喜んでやりますよ」と、新しい学校を作ることにしました。子どもたちが勉強したいことは様々なんですが、バーバ家族はみな個性豊かなので、特殊能力も駆使してそれぞれに合わせた教科を受け持つことができるんですね。そして、一年が経ち、学校は楽しく勉強ができる場所になってバーバパパは大満足。バーバパパは言います。「子どもたちは学校でたくさんのいろんなことを勉強しました。だけど、何よりも素晴らしいのは、みんなみんな、楽しく幸せにやっているということです」と。

 「バーバパパシリーズ」はフランスのお話ですが、さて、日本の学校は楽しく勉強できる場所になっているでしょうか。おおきな木では野外塾という活動を行なっていますが、その子たちに「学校は好き?」と聞いてみると、ほとんどの子が「嫌い」と言います。どうしてでしょう? だいたいの想像はつきます。意味があるのかないのか分からないような校則があったり、宿題、宿題で苦しめられたりの毎日。楽しいはずがありません。子どもたちがやりたいこと、知りたいことはみなそれぞれあると思うのですが、そうした多様性を受け入れることはできていません。不登校特例校だけでなく、どこの学校でも、「ありのままの君を受け入れる形」に発想を変えていくことができれば、みんな学校が大好きになるんじゃないかと思うんですけどね。

 先日、今期最初の野外塾「春のデイキャンプ」を行いましたが、同じ場所にいてもみんながやりたいことはみんな違います。主宰者として、いろいろと教えたいこともない訳ではありませんが、何よりも大事なのは、「みんなが楽しく幸せにやっている」とうことです。みんな違って当たり前。多様性を楽しみたいと思います。

おおきな木 杉山三四郎