セミとも馴染みになれた今年の夏

 今年もあっという間に夏が終わり、夏好き人間としては、毎年この時期は寂しさを感じます。おまけに、今年はとにかく雨が多くて、太陽がギラギラと照りつける「正しい日本の夏」といった日は数えるほどしかなく、ほんと残念な夏でした。しかし、天気には恵まれなくても、山や海でアウトドアは楽しみました。そして、いつもそんなに気にしていなかったセミの鳴き声もそこそこ判別できるようになってきました。

 今年初めてセミの声を聞いたのは、5月の荘川(岐阜県高山市)でのキャンプ。盛んに鳴いていたのがエゾハルゼミです。図鑑によるとその鳴き声は、「ミョーキンミョーキン、カナカナカナカナ」となっていますが、たしかに前半と後半部分では違う鳴き方をしています。最初、ヒグラシが鳴いているのかと思ったのですが、時期が早すぎるし、ちょっとおかしいよな、何だろう、と思っていたら、子どもたちがエゾハルゼミの♂を捕まえてきてくれて、「ああ、これだったんだ」と判明。

 6月には、奥飛騨の平湯温泉から上高地へ行きましたが、ここでもエゾハルゼミが盛んに鳴いていました。鳥の鳴き声も誰が鳴いているのか分かると嬉しいですが、セミも同じですね。7月になって板取(岐阜県関市)の山奥に渓流釣りに入った時には、今度は正真正銘のヒグラシが鳴いていました。谷筋に響くあのカナカナカナカナは何とも侘しい気持ちになります。

 そして、梅雨が明けると朝から賑やかなのがクマゼミ。我が家の小さな庭にある何本かの木にびっしりとしがみついて、オスたちは必死にシャーシャーシャーシャーと求愛のメッセージを送っています。子どもの頃、このあたりにはクマゼミはあまり多くなくて、あの透き通った翅の大型のセミはあこがれでしたが、今では街中はクマゼミ天国と化しています。しかし、クマゼミは昼ごろになるとピタッと鳴くのをやめて、それまで負けていたアブラゼミの鳴き声が街中に響きます。

 やたらといるクマゼミやアブラゼミはあまりありがたくないのですが、7月下旬に、岐阜市内のキャンプ場で昆虫採集キャンプをしたときにミンミンゼミが鳴いていたのはちょっとびっくりでした。ミンミンゼミというともっと山の方にいるという感覚だったんですが、こんな里山にもいたとは。今まで気がつかなかっただけなのかも知れませんが、ちょっと嬉しいです。

 8月に入ると野外塾恒例の無人島キャンプ。瀬戸内海のその島では、クマゼミ、アブラゼミの他に、ツクツクボウシが俺も負けてはいないぞとばかり、朝から張り切っていました。彼らは夜も休まず鳴いてますから、たいしたもんです。話は変わりますが、セミは食べても美味しいらしくて、今年の無人島でも食べていた親子がいました。何ゼミだったんでしょうね。僕も、塾長として、かつ、やがて訪れる昆虫食の時代に備えて、子どもたちを見習って食べてみなくてはいけないんですが、今のところセミもコガネムシも食べてません。

 8月中旬からは雨が続きましたが、運よく雨が上がった休みの日、長良川源流の山、大日ヶ岳に登ってきました。見晴らしのいい尾根伝いにジジージジーと響くかったるい声。俺のことを呼んでいるのかとムカつきましたが、エゾゼミです。必死に鳴いているオスの姿を何頭も発見。近づいてもなかなか逃げていかないので、いくつか素手で捕まえておみやげに持って帰りました。これは今僕の標本箱に収まっています。──というわけで、セミと馴染みになれた夏でもありました。

おおきな木 杉山三四郎