この星に、戦争はいりません

 今年も残すところあと1か月。もうすぐクリスマスがやってきますが、クリスマスが特別な日であることを改めて教えてくれる絵本があるのでご紹介します。『戦争をやめた人たち…1914年のクリスマス休戦』(鈴木まもる 文・絵/あすなろ書房)。

 第一次世界大戦が始まった年にヨーロッパ戦線で本当にあった話をもとに描かれています。12月24日の夜のこと、イギリス軍の兵士が撃ち合いに疲れて塹壕に身を隠して休んでいると、どこからか歌声が聞こえてきます。なんとその声は鉄条網をはさんで対峙するドイツ軍の塹壕から聞こえてくるではありませんか。イギリス兵たちもよく知っているクリスマスの歌「きよしこの夜」です。すると、イギリス兵たちもそれに合わせて歌い始め、今度はその声がドイツ兵のところにも届き、拍手が起こります。言語は違ってもキリスト教徒なら誰でも知っている歌がその後にも両軍の塹壕で続きます。

 そして、その翌朝のこと、一人のドイツ兵が武器を持たずに塹壕を飛び出し、イギリス軍の方に向かってきます。イギリス軍は銃を構えるのですが、一人の若者の兵士が銃を持たずにそのドイツ兵に近づき、二人は握手を交わします。すると、両軍の兵士たちは全員塹壕を飛び出し、相手の兵士と「メリークリスマス」と挨拶を交わし、故郷にいる家族の話などで盛り上がり、誰かが上着をまるめてサッカーボールを作ると、サッカーが始まったのです。それは夕方まで続いたそうです。

 残念ながらそれで戦争が終わったわけではなくて、その後4年も続いたのですが、その兵士たちは戦場に出ても銃を相手に向けることはなかったそうです。。

 「いっしょに笑い、遊び、食事をし、友だちになったから、相手にも故郷があり、家族や子どもがいることがわかったからです。国を大きくするために戦争をするより、大切なものがあることがわかったから、この人たちは、戦争をやめたのです」。この絵本はそう締めくくっています。 

 今、連日テレビや新聞で伝わってくるのが、イスラエル軍によるガザ侵攻のニュース。イスラエル軍はガザ地区住民が避難している学校や病院などを攻撃し、今朝(11/23)の新聞によると、ガザ側の死者は14,000人を超え、そのうち5,000人以上が子どもだというではありませんか。イスラエル軍の言い分は、病院の地下にイスラム武装組織のハマスの司令部があるからだと攻撃を正当化しようとしていますが、だからといって何の罪もない市民を巻き添えにしても構わないのかと言いたいです。軍は、病院の地下にトンネルが見つかったとその映像を公開していますが、今どきそんなのはいくらでも捏造できる訳で、何の証拠にもなっていないと思います。

 日本では、岸田内閣は防衛費を増額して、敵基地攻撃能力を備え、先制攻撃も辞さないという動きを見せています。国を守るためには武器は必要なのでしょうか。子どもの頃、喧嘩をすると、先に手を出した方が負けだよと教えられてきましたが、今回のガザ侵攻も先に手を出したのはイスラム武装組織のハマスの方で、イスラエルに反攻の口実を与えてしまいましたよね。どちらの側に立ってみても、改めて「武力では何も解決できない」と強く思います。暴力は憎しみの連鎖を生むだけです。人の命を奪い、多くの悲劇を生むだけです。

 この絵本を描かれた鈴木まもるさんは、あとがきで「この星に、戦争はいりません」と締めくくられています。この思いを世界中の人々に送り届けたいです。

おおきな木 杉山三四郎