「野力(のぢから)」のおかげで30年──おおきな木野外塾

 「おおきな木野外塾」の新年度会員の募集が始まりました。4月から第31期になります。野外塾も30周年になるんですね。1994年5月15日、第1回のプログラムは「春のデイキャンプ」でした。岐阜市内の岩戸公園から歩いて妙見峠を越えて達目洞まで歩き、秘密基地で一日を過ごすというプログラムで、講師にアウトドアの鉄人二名良日(ふたなよしひ)さんが来てくれました。

 お天気は雨。いきなり雨だったらどうしよう、という不安が的中。だけど二名さんは、「大丈夫大丈夫、テントを張ればいいんですよ」というではありませんか。さすが、世界の秘境を探検してきた人は言うことが違います。そこで、大きなブルーシートを購入し、秘密基地に張ることに。張り方がまた大胆です。シートの四隅に小石を包んでコブにして、それにロープを巻き付けて、丈夫な立木にくくりつけます。そのロープのかけ方がまた大胆。ロープの先に手頃な石をくくりつけて上の方の木の股めがけてエイっと投げるわけです。

 このテント張りは子どもたちにも大ウケして、その後雨の日の一つのパフォーマンスとして定着し、毎年1、2度はやっているのではないでしょうか。野外活動は何でも、そりゃあ雨よりも晴れていた方が気持ちがいいに決まってますが、雨でも十分楽しめることを初回に教わったわけです。今でも雨が降るとテントを張り、雨具を着て遊んでいますが、大人よりも子どもの方が全然平気ですね。どろんこの崖を滑ったり、大きな水たまりにいかだを浮かべて遊んだこともありました。

 二名さんには他にもいろんなことを教わりましたが、たき火で焼く木の枝パン(棒パン)もその一つ。手頃な棒っ切れを拾ってホットケーキミックスなどのパン種をぐるぐると巻いてたき火で焼くだけです。遠火で20〜30分じっくり焼いて、ほんわかと膨らんできたら食べごろ。これに、野草や野いちごのジャムをトッピングすることもあります。ワイルドでしょ。

 30年、いろんな野草やキノコを食べたり、あまり綺麗とは言えない川で泳いだりしてきましたが、不思議なことに、大した衛生管理などしていないのに食中毒が起きたことがありません。もちろん、毒草、毒キノコは食べないとか、食器はクレンザーで洗ったら天日(紫外線)乾燥をするとか、野外塾流の衛生管理はちゃんとしてますよ。でも、消毒スプレーをかけたりするような、かえって体に悪いようなことは避けてきました。人間の体にはそもそも自分の体を守ってくれている常在菌があるわけで、消毒のしすぎはその菌も殺してしまうので、自己免疫力が落ちてしまいます。

 子どもたちは自然の中で遊ぶことによって、体力と生きる力を育てていきますが、野外塾ではそんな自然(野生)の力のことを「野力(のぢから)」と名づけました。そして、「時間・空間・仲間」の3つの「間」を用意することが大事であるということをモットーにしてきました。子どもたちが自由に遊べる時間、自然と触れ合える空間、そして共に過ごせる仲間です。これといった遊具もない自然空間で、子どもたちは時間を忘れて本当によく遊びます。そして、いろんな年齢の子がいますが、歳の差などほとんど気にすることなく気の合う仲間を見つけます。大人の方も大勢参加されていますが、大人同士の関係性も広がってくると、一体誰の子かも分からなくなっているような光景も多々見られて、大家族で過ごしているような気分です。「野力」のおかげで、人の輪も広がり、本当に嬉しいかぎりです。

おおきな木 杉山三四郎