チョウシンタで暑さをぶっ飛ばそう! 長新太さん没後20年

 夏です。「暑いですねえ〜」と皆さんお決まりのご挨拶が交わされていますが、夏なんだから暑いのは当たり前。海、山、川、プール、夏を楽しもうじゃありませんか。マスコミでは毎日熱中症警戒を呼びかけてますが、エアコンの効いた室内に閉じこもってばかりいては体が弱ってしまいますよ。そこで、暑さも笑って吹き飛ばしてくれるようなユーモア絵本の境地を切り拓いた絵本作家、長新太さんのお話をさせてください。

 6月25日は長新太さんの命日でした。亡くなられてからもう20年にもなるんですね。おおきな木で『つきよのかいじゅう』(長新太作/佼成出版社)の原画展をやったのが今からちょうど30年前。長さんの大ファンだった僕は、その原画を受け取りに、佼成出版社の編集者の方といっしょに、はるばる都内の長さんのご自宅まで行ってきました。長さんの絵本には親子でハマってたので、こちらはすごく緊張して行ったんですが、気さくに応対していただけて、帰りには、長さんも所属されている漫画家の会のカレンダーやなぜかビール券までいただいてしまいました。そのビール券を使うのはちょっともったいなかったんですが、とっておいてどうなるものでもないのでビールに引き換えましたけどね。

 それはともかく、僕が初めて長さんの絵本に出会ったのは長男が幼稚園のころだったと思います。妻が友だちから『キャベツくん』(文研出版)を借りてきたのです。初めて読んだときの感想は、「なんじゃこりゃ〜!」でした。それまで読んだことがある絵本に、こんなぶっ飛んだ世界はありませんでした。

 頭がキャベツのキャベツくんと服を着て帽子を被ったブタヤマさん。お腹が空いたブタヤマさんはキャベツくんを食べようとしますが、「僕を食べるとキャベツになるよ!」と言います。すると、鼻がキャベツになっているブタヤマさんが空に浮かんでいるんです。いったいどこからそんな発想が生まれるのか不思議です。その後、キャベツを食べたヘビやタヌキやゴリラやらが空に浮かんでいる絵が続き、「〜が食べたら?」「こうなる!」「ブキャ!」の繰り返し。これがまた面白くて、いっとき我が家のブームにもなりました。

 それまで絵本や物語の定石とされていた「起承転結」とか「行きて帰りし物語」といった展開の要素はどこにもありません。そして、ありえない色使いの絵。でも、子どもたちは大好きになり、我が家に長さんの絵本は少しずつ増えていきました。

 そして、原画展もやった『つきよのかいじゅう』。山奥の湖でネッシーみたいな怪獣が出てくるのを10年も待っている一人の男の前に現れたのは…? な、な、なんと、怪獣ではなくシンクロナイズドスイミングをしている大男。その吐く息が音楽のように聞こえてきます。ボコボコボコボコ ボコボコボン…、ボコボコボコボコ ボコボコボン…、ボコボコボコボコ ボコボコボン…。すみません、この絵本の面白さを説明するのは不可能です。絵本を見ていただくしかありません。

 絵本に携わる多くの人たちが指摘しているように、長新太さんは日本の絵本界に新境地を開き、その影響を受けた多くの絵本作家さんたちが今も活躍されています。没後20年を機に、長新太さんを愛する全国の出版社や書店が協賛して「哀悼フェア」を行うことになりました。数ある長さんの絵本や漫画のごく一部しか展開はできませんが、チョウシンタの世界に足を踏み入れて、暑さを吹き飛ばしてみてはいかがでしょう。

おおきな木 杉山三四郎