ヨシタケシンスケさんの絵本と「いも」

 この文章を書いている今日はクリスマスイブ。もうすぐお正月。あっという間に一年が経ってしまったなあ。この一年、僕は何をやって来たんだろうと、毎年毎年嘆いてる今日この頃であります。

 さてさて、2016年もいろんな新刊が出ましたが、子どもたちと遊びまくっている僕としては、遊べる絵本が出ると大変嬉しいわけで、先日、つい最近出たばかりの『なつみはなんにでもなれる』(ヨシタケシンスケ作、PHP研究所)を携えて、毎月お邪魔している関市の保育園に乗り込みました。年少さん以下の子たちにはこの絵本の面白さが伝わるかどうかちょっと心配だったので、まず、年中、年長の子たちに読んでみました。すると大ウケ。ちょっと内容をご紹介しますね。

 この絵本の主人公なつみちゃんはおそらく4〜5歳ぐらいの女の子。もう寝る時間なのに、「なつみが何かのマネをして、それをお母さんが当てる」というゲームを思いつきます。お母さんは仕方なく付き合うことに。でも、なつみが何のマネをしてもさっぱり分からなくて、とうとうなつみちゃんは怒り出してしまうといった筋書きです。それで、何が面白いかというと、奇想天外ななつみちゃんのものまねと、適当に受け答えするお母さんとのやりとり。ヨシタケさん独特のさりげない力の抜けたユーモアが光ります。

 大ウケした年長さんが僕の読み聞かせが終わった後にやったことというと、保育室にある座布団やほうきやバケツなどを持ち出してきて、絵本に出てきたなつみちゃんのものまねです。若い担任の保育士さんも面白がっていろいろけしかけるので、どんどんエスカレートしていきました。いいなあ、子どもたちって。僕は感動して写真を撮りまくってました。

 きっと力が抜けてるんですね、この子たちも。この日、年長さんの保育室には、みんなが書いたお習字がずらっと貼ってありました。そこに書かれていた文字はなんと「いも」。「いも」ですよ「いも」。「ゆめ」とか「きぼう」とかじゃなくて「いも」。みんな違った「いも」がずらーり。先生も、ましてや子どもたちも奇をてらったわけではなく、何となく「いも」が書きたかったんでしょうね。そんなことに大ウケするこのおじさんもどうかとは思うんですが、この日、僕は清々しい気持ちに満たされて帰って来ました。

 ヨシタケシンスケさんに話は戻りますが、2016年の第9回MOE絵本屋さん大賞にまた輝きました。それも一位と二位。一位は『もう ぬげない』(ブロンズ新社)。子どもの日常の一瞬を切り取った、言ってみればどうってことない話なんですが、思わず吹き出してしまいます。二位は『このあと どうしちゃおう』(ブロンズ新社)。死んだらどうなっちゃうんだろう、天国に行ったらこんなことがしたいといった話で、おじいちゃんの死を扱っているのに、決して重くないところが大ウケの絵本です。ヨシタケさんにはお会いしたこともありませんが、ものすごい空想力に富んだ人なんだろうと思います。いつも変なことを考えてほくそ笑んでいる夢想家なのかも知れません。そして、彼が描くイラストはフニャフニャで、じつに力が抜けています。力強さが全くないんです。それがたぶんヨシタケさんのありのままの姿なのでは。そんな気がします。

 力を抜くって簡単なようで簡単ではないのですが、僕も限りある人生を、「いも」の精神で生きていけたらいいなと思うのであります。

おおきな木 杉山三四郎