「スイス鉄道ものがたり」を旅して

 『スイス鉄道ものがたり』(たくさんのふしぎ傑作集/福音館書店)という絵本があります。27年前に出た絵本なのですが、昨年、イタリアからレーティッシュ鉄道に乗って、ちょっとだけスイスに足を踏み入れて、アルプスの風景やスイスの山岳鉄道に魅せられたその頭で改めて読んでみました。すると、前に読んだ時よりもどんどんと想像力が膨らみ、そこに載っている鉄道に全部乗ってみたい、そして、アルプスの山々を歩いてみたい、という気持ちがパンパンに膨らみ、6月終わりから7月にかけて、ついに行ってしまいました。

 昨年のイタリア旅行の際に旅の計画を立てる楽しさにも目覚め、今回も6泊7日の旅程を全部自分で立てました。ちょっと偉そうですが、今はネットで何もかも検索できてしまうので、大したことではありません。おまけに、既成のツアーで行くよりも大幅に費用を削減することができるので、一挙両得です。

 さて、でもこの絵本の旅程を辿るととても6泊では行けないし、たとえ行けたとしても大きな荷物を担いでの移動ばかりになって忙しいだけになってしまうので、今回は、ユングフラウとマッターホルンの二つの有名観光地をメインに計画を立てました。いろいろ調べていてまず知ったことは、スイスの鉄道網の凄さ。とにかく山と湖ばっかりの国ですから、直線で走っている路線はほとんどなく、曲線やループを描いて走る鉄道が網の目のようになっています。そして、どんな田舎でも30分に1本ぐらいの割合で便があるのがまた凄い。おまけに乗り継ぎ時間も短い。田舎と言ってもそれだけ多くの観光客が訪れているということなんでしょうね。

 セントレアからチューリッヒまでは約17時間。チューリッヒからは4回鉄道を乗り換え、ユングフラウを望む村ヴェンゲンへ。そこからロープウェイでメンリッヒェンという山に登るとアイガー、メンヒ、ユングフラウの3名山を始めとする4000m級の山々が眼前に。そこから約2時間のハイキングコースはとにかく感動でした。色とりどりの花を咲かせる高山植物の群生。そこに訪れる高山蝶。カメラのシャッターを押す手を休める暇がありません。次の日は、ユングフラウ鉄道に乗って、標高3571mのユングフラウヨッホまで行く予定です。この鉄道は1912年に全線開通してるんですが、こんなところにまで鉄道を通してしまうこの国はすごいです。こんな登山鉄道がまた各所にあるんですからね。

 こんな調子で旅行記を書いていたら誌面がどれだけあっても足りないのでやめときますが、鉄道の旅がまたいいのは、いろんな国から来ているお客さんたちとの会話が楽しめるところです。チューリッヒからは、にぎやかなスイス人のおっちゃん、おばちゃんたち御一行様が、「どこから来たのか?」「どこへ行くのか?」に始まって、いろいろ話しかけて来てくれました。ツェルマットのゴンドラで隣り合わせになったスイス人の女性も、”Can you speak English?”に始まっていろいろ。ホテルやレストランでもみんなフレンドリーです。スイス人だけでなく、各国の人たちとも乗り物で会話が弾みました。香港、南アフリカ、インド、オーストラリア、中国、そして、大阪や広島のおばちゃんたち。大した話は全然してませんが、いいんです、それで。

 スイスが美しいのは自然や町の風景だけでなく、鉄道の外観、車内、各施設のトイレも美しい。観光立国であることは確かなんですが、車ではなく鉄道を優先させて来たのは環境への配慮も大きいんでしょうね。

おおきな木 杉山三四郎