ネコにはネコの世界があるのです<ネコの絵本>

 あなたはイヌ派ですか、それともネコ派ですか? よくある質問ですが、僕は断然ネコ派です。我が家で飼っていたネコといえば、僕が高校生の時に拾ってきた白ネコ。名前はペレ。当時僕はサッカー少年だったので、サッカーの王様と言われているブラジルのペレからもらいました。ペレは、うちのジャングルのような庭でよく遊んでいて、友だちもできました。その友だちの名はトスタオ。やはり当時のブラジル代表サッカー選手です。トスタオは、庭の松の枝に体を預け、足をだらりんとぶら下げたスタイルで寝ていました。時どき「ブー」と鼻を鳴らすので、トスタオブーとも呼んでました。

 それから何年経ったでしょうか。ネコを飼うことなんてなかった我が家ですが、今から26年前、おおきな木を始めた年ですが、野外塾の帰りに一匹の子ネコに遭遇し、連れて帰ることになりました。白ネコだけど、額にスミいちの、生まれて間もないメスの白ネコです。家に帰って測ったら、体重200グラム。ガリガリで、震えていて、死にそうで、放っておくわけにもいかず、すぐに動物病院に駆け込みました。即入院でしたが、何とか助かって、我が家の一員となりました。

 名前はトト。拾った場所が百々ヶ峰の麓だったので、ドド。でも、ドドでは響きが悪いので、トトにしました。成長するにつれ額のスミいちは消えて、ペレの生まれ変わりではないかと思われるような真っ白なネコになりました。「トト!」と呼ぶと、「ふにゃあ〜」とだるそうに返事をします。家の中の生活にもすっかり馴染み、レバーに飛びついて、自分でドアを開けることもできました。閉めることはしませんでしたけどね。

 その当時、『タンゲくん』(片山健作・絵/福音館書店)という絵本が我が家ではブームでした。タンゲくんもどこかからやってきたネコで、片目がつぶれているのでタンゲくん(丹下左膳はご存知ですか?)という名前になったのです。タンゲくんは、虫捕りは得意なのに、掃除機が苦手。我が家のトトもそうでした。「タンゲくんは私のネコだよね」と飼い主の女の子が言うと、タンゲくんは「カ、カ」と変な声で鳴いて、外に出て行ってしまいます。そして、外で会っても知らん顔。タンゲくんはタンゲくんの世界があって、そこで何をしているのか誰も分かりません。

 ネコはイヌと違って人に依存することなく、独自の世界を生きてますよね。存在感が大きいのです。そんなネコの世界を描いた絵本で、最近すごいと思っているのが、町田尚子さんの絵本。新刊『ねこはるすばん』(町田尚子作・絵/ほるぷ出版)では、人間が出かけて留守になると、ネコは箪笥の扉を開けてどこかにお出かけ。木のウロから姿を現すと、そこにはネコの世界があって、まずはカフェでコーヒーを一杯。その後、床屋に行って毛並みを整えると、映画館、回転寿司、バッティングセンターとはしご。最後に銭湯で疲れを癒してから、人間の家に帰ってくるのです。

 町田尚子さんもネコ好きの方のようで、2016年刊の『ネコヅメのよる』(WAVE出版)では、主人公のネコは町田さんの飼い猫がモデルになっているのだそうです。また、昨年出た『なまえのないねこ』(竹下文子文、町田尚子絵/小峰書店)は、ネコ好きのお二人の共作です。いずれの絵本も、ネコがわざとらしく可愛く描かれていないところが魅力です。ネコと共に暮らしている作者ならではのリアルなネコ。存在感ありありです。皆さんもネコの世界をのぞいてみませんか?

おおきな木 杉山三四郎